August 22, 2024 → August 28, 2024
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-本選会場-
アナウンサー
スーパースターたちの圧倒的なパフォーマンスが続いております!
いやはや、ものすごいですねぇ。
シンガー、ダンサー……さあ、次に登場するスターは……!
アナウンサー
「アイドル」だ!
歌にダンスに、そして笑顔……!さまざまなパフォーマンスで、
魅せます!……アイドル・工藤忍!!
-舞台袖-
蓮実
忍ちゃん……!
七海
忍さんの歌は、みんなのハートをトロトロにすること間違いなし!
ずっと難しいって言ってた、あのダンスパートだって、
忍さんならきっと、びちびちに決めてくれるのれす!
愛海
……!見て、プロデューサー!
忍さん……笑ってるよ!
工藤忍のパフォーマンスが始まった……
-数日前-
忍
記者さん。お願いがあるんだ。
アタシのこと、すみずみまで記事にしてくれませんか。
忍
レッスン風景、行き帰りの道、選考のステージ、どんなことでも。
もし、何かやってるアタシを見て、ばかだな~って感じたなら、
そう書いてください。ぶざまだなって思ったなら、そう書いて。
忍
記者さんが見て感じたとおりに、ありのままに、さっ。
新人記者
忍さんの日々を、私はあれからずっと追いかけてきた。
そして、たくさん記事にしてきた。
そう、あんなレッスン風景のことも……。
忍
ここでビシッとキメポーズ……。
あいたたたっ!
あ~っ!も~~っ!
新人記者
(……こんなに夜遅くまで……)
忍
あ、あれっ?
昨日はできてたとこだったのに……。
ん~……。
新人記者
(……もう来てる……。こんなに朝早く……
いつからいたんだろう。)
忍
……はぁ……はぁっ……!
これじゃ……届かないっ……。
まだ……もっと……もっと気持ちを表現して……!
忍
……あ。
ごめんね、気づかなかった。もしかしてずっといました?
新人記者
い、いえ。すごい集中力だったので……!
話しかけるタイミングを待っていました。
あの、まだ続けるんですか?もう何時間もやってるのに……。
忍
時間なら大丈夫っ。このレッスンルーム、まだ使えるから。
プロデューサーさんがたっぷり押さえてくれたんだ♪
忍
アタシが頑固で、何を言ったって無駄ってこと、
プロデューサーさんはよく知ってるからね~、あははっ♪
新人記者
(プロデューサーさん……?そうだ、あの人だ……。
さっき遠くから、心配そうに様子をうかがっていた……。
何度も何度も、そっと見にきて、見守っていた……)
忍
ルームが閉まるギリギリまでやっていくよ。
だって、アタシの体はまだやれるって言ってる。
ここで切り上げちゃうのはもったいないっ♪
新人記者
多くの人が、忍さんの記事を読んでくれただろう。
そして、この会場に足を運び、
あるいは、この生放送をTVで観て……。
新人記者
そのたくさんの人たちの前で、
忍さんはいまステージに立ち、歌って、踊り、手を振る。
新人記者
忍さん。あなたは……。
あなたは、きっと……このコンテストで……。
忍
わかってる。
このコンテストで、アタシはきっと優勝には届かない。
忍
努力すればなんでも越えられるなんて、そんなの手品だよ。
努力は手品じゃない。そんな甘いストーリーは訪れない。
アタシは……。アタシは……ただ……!
七海
いよいよダンスパート……。
……あ!忍さん……いま……。
もしかして、毎日の練習が、尾びれにきているのれす……?
ゆかり
大丈夫……まだ、乱れてはいませんっ……!
忍ちゃんのパフォーマンスが、大きな旋律のようになって
会場中の心を震わせている……!
観客たち
忍……!
忍ちゃん……!
工藤忍……!
忍
アタシはただ、見せつける。
努力を。
ただひたすら努力するアタシの姿を。
忍
この世界に、ありのまま、さらしつづける。
それだけだ。
忍
努力はかっこ悪い。そう思われてもいい。
努力はどうせ実らない。そう思われてもいい。
努力なんて時代遅れだ。そう思われてもいい。
忍
あんなふうになりたくない。
そう思われてもいい。
忍
勝ちを逃がしつづけたアイドル。風をつかめなかったアイドル。
優勝なんて狙えないアイドル。
そう陰口を叩かれてもいい。
忍
もし、いま、この瞬間……。アタシを見ている人の胸の中に、
ほんのわずかでも、たとえどんなものだって、
何かの感情が動いたのなら……!
観客たち
忍……!
忍ちゃん!
忍ーーっ!!
忍
それはアイドル工藤忍の勝利……!
ううんっ……この世界への、この時代への、
「努力の勝利」なんだ……!
愛海
ねえ……アイドルってさ……。
アイドルって、何なのかな……?
蓮実
アイドルとは、その生き方で、人々に夢を見せるもの。
生き様そのもので、大切な何かを伝えつづける存在。
私はそう思っています。
ゆかり
だとすれば、忍ちゃんは……。
努力のアイドル・工藤忍は……。
七海
はい!
忍さんこそが、アイドルなのれす!
努力という夢、そのものなのれす!
蓮実
努力という、もしかしたら時代遅れかもしれないものを、
それでも信じたい人たちがいる。
努力がこの世界でもっとも尊いものだと、夢見たい人たちがいる。
蓮実
そんな人たちにとって、努力のアイドル工藤忍は、
いつまでも夢の形そのものでありつづけるんです。
だから……だから……!
忍
真っ白だ……。
ああ……もう何も見えないや。
忍
苦しいとか、つらいとか、そんな感覚もどっかいっちゃった。
自分が立ってるのかどうかも、よくわかんない。
でも……。
忍
アタシは憧れのアイドルとして、いま最高のステージの上にいる。
そして……。
聞こえるんだ。アタシの名前を叫んでる、みんなの声が……!
ゆかり
忍ちゃんっ!
けっぱれ!
七海・愛海
けっぱれ、忍さん!
観客たち
けっぱれ、忍ちゃん!
けっぱれ、忍!
けっぱれー!忍ーー!!
穂乃香・柚・あずき
忍ちゃん、けっぱれ!
忍チャン、けっぱれーっ!
忍ちゃん、けっぱれ~っ!
蓮実
もうすぐキメポーズのシーン……。
……!忍ちゃんっ……!
あの感じでは……もしかしてもう……意識が……?
プロデューサー
(……自分は裏方の人間だ。この舞台袖でみんなと同じ
ふるまいをすることは、許されないことかもしれない。
それでも……。それでも自分は、叫ばずにはいられない……!)
[けっぱれ、忍!]
忍
届いたよ、プロデューサーさん!
アナタの声!
忍
友達の声、仲間の声、ファンの声、みんなの声……!
アタシに夢をかけてくれる、すべての人たちの声……!
忍
だから、アタシは立ちつづける。
立って、示しつづけるんだ。
みんなの夢の形は、努力の輝きは、いつだってここにあるって!
-パフォーマンス終了後-
蓮実
忍ちゃんっ!
……すごいパフォーマンスでした……!
あのダンスパートも……あっ!
[忍を支える]
忍
……はぁ……はぁ……。……ふふっ。
……プロデューサーさん。見せられた……かな……。
夢の景色。アタシの全部。アタシがこの世界に伝えたいもの。
[しっかりと
うなずく]
忍
ありがとう。
ふふっ……幸せだなぁ……♪
アナウンサー
さあ、いよいよすべてのパフォーマンスが終わりました!
結果発表です!
「スーパースター・ベスト」、優勝者は……!
-番組が終わり、数日後-
インタビュアー
いやあ、白熱しましたねぇ、「スーパースター・ベスト」!
終盤であんなドラマが起きるとは思いませんでした。
インタビュアー
それでは、今日もひっぱりだこ!
優勝者インタビューです!
今回の勝利と、そしてあなたの努力について、ひとこと!
優勝候補のダンサー
はい。
努力というものについて、私は今も答えを探しつづけている。
あのとき垣間見た、その片鱗……あのまばゆい光のこと……。
ネットの書き込み
「忍ちゃん、あと一歩だったな。」
ネットの書き込み
「いや、それってつまり、あと一歩で届くってことじゃないか。
ここからなんだよ。ここから始まるんだ。
俺はまだまだ応援するよ、俺たちの工藤忍を!」
ネットの書き込み
「だって忍ちゃんは、人が努力する姿は最高にかっこいいん
だってこと、この世界に教えてくれるアイドルなんだ。
工藤忍は、いつまでも俺たちの夢なんだよ!」
ネットの書き込み
「こんにちは!工藤忍ちゃん、初めて見ました。
がんばってる姿にすごく感動しました……!
今日から私もファンのひとりです!よろしくお願いします!」
-事務所-
レッスンの声が、今日も響いている……
忍
ワン・ツー……。あ、プロデューサーさんっ。
も、し、か、し、て、また叱りにきた?
ごめんごめん、オーバーワークには気をつけるからさっ。
プロデューサー
ドリンクの差し入れだよ。
忍
ありがとっ。
……ぷは~っ!
あ、いまちょっと素が出てた?えへへっ♪
忍
ね、プロデューサーさん。
それで次回のエントリーシートなんだけど、こんな感じで
書いてみたんだ。選曲についても相談したくって。
忍
あー……2回連続で挑戦とか、またなんか言われちゃうかな~。
がむしゃらすぎ、がっつきすぎ、あきらめが悪い、とかさっ。
でもね。アタシは工藤忍でしょ?
-その頃・雑誌編集部-
新人記者
「努力のアイドル、工藤忍。
優勝だけが勝利ではない。彼女はその『生き様』で、
人々の心を今日も揺さぶりつづけているのだから。」……と。
新人記者
……ふう。今頃どうしてるかな、忍さん。
そうだ、あの日……。
あの夜間のレッスンのとき……こんなことも言ってたっけ……。
新人記者
いえ、レッスンルームの時間のことを言ってるんじゃないんです。
あなた自身の時間はどうなのか、って……。
高校生の女の子が、もっと自分の時間がほしくはないんですか?
忍
ん?アタシの時間?だって、これがアタシの時間、でしょ?
アタシはね、こうしてるときが一番幸せ。
全力で、自分を絞り尽くして、前に進もうともがいてるときがさ。
忍
だって、アイドルだから、こんなことができるんだよ。
ずっと焦がれつづけてきた、アイドルのための努力だもん。
こんなに楽しいことってないっ!
新人記者
ふふっ……♪
よし、私だって……!
忍
ね、プロデューサーさん。
忍
アタシはいま、小さい頃、思い描いてた夢の中にいるんだ。
毎日が、あの夢の世界なんだよっ!
一瞬だって、努力しないなんてできないんだっ♪
忍
さ、プロデューサーさん!
今日もアイドル、始めようっ!